記事更新日 : 2017.3.27

原田南美子さん

人生サーフィンの終着点としての蒲生。

その家の玄関の前に立つと、良い風が吹き抜けて来た。
「風通しが良いように、造ったんですよ。」と原田南美子さんはおだやかに言う。その表情そのままに、自然素材の色が放つやさしい雰囲気の家は、大工で夫の勝(まさる)さんと2人で、中古物件を時間をかけてリノベーションした努力の結晶だ。

「理想の家」に対するこだわりと思いが強い二人は、相談を重ねるたびにこれまで何度も話し合ってきたと言う。真剣に「家」という場づくりにこだわってきて、今のご自宅がある。

世界との出会いが何かを変えた。

南美子さんは福岡県小倉市の出身。高校時代は陸上部に所属、活発な思春期を過ごした。大学ではバイトやサークル活動に没頭、イベントを企画し、人を集めて楽しむことに喜びを見いだしていた。大学4年の時に国際交流やボランティア活動を行う友人たちとの出会いがあり、それから視野が大きく広がり、卒業旅行では一人でインドへ行った。空港を降りたとたん、物売りにかこまれる異文化体験は、これまでぬるま湯に浸かっていたような身体に強烈な刺激が与えられ「これまで一度も使っていなかった何かが開いた感じ。」を受けた。就職し社会人になっても、仲間達と国際交流のボランティアの活動は続け、世界各地の切実でギリギリな状況にある人々との出会いが、南美子さんの何かを変えていった。と同時に「私に何ができるのだろう。自分には人のためになる技術が足りない。」という無力感から国際交流の世界から一度離れることにを決めた。

世界から日本、自然の中での経験。

友人の紹介で行った東大駒場寮には様々なクリエイティブな生き方をする人達がいて、そこで強い衝撃を受けた。「世の中を変えるにはアートの力が必要。」と感じた南美子さんは、美学校へ通いシルクスクリーンなどを習うようになる。ただ、東京暮らしのストレスからか、アレルギー症状に悩まされ、自然環境に身を置きたいと夏のシーズンだけ穂高岳の山小屋でバイトをすることにした。山までの生活は南美子さんを強くした。「その当時はクマ女みたいだったんですよ。」身なりや服装もワイルドになり、北海道では「シャケバイ」という鮭をさばいたりイクラをとるバイトも経験もした。シーズンごとに全国を渡りあるく人々との出会いも、感覚が自由に解き放たれていく事に繋がった。自然環境を大切にし、共に生きること、食や農の安全を守ること。様々な事を学んだ。体も健康体に戻った。ただし山や自然の中で出会う人の中には、社会を「批判したたかう」事に価値を見いだす人もいたが、自分には何かが違うとも感じていた。

夫との出会いと結婚、鹿児島へ。

そんな時に立ち寄った鹿児島・蒲生町で、大学の時の国際交流仲間の丸野博和さんと再会。丸野さんは祖父の家を交流の場として解放、主に国際交流の経験者仲間と共に交流会を開催していた。何気なくふらりとその場に加わった南美子さん。実はそこに今の夫となる勝さんも参加していた。

2005年に勝さんの郷里の東郷町へ移住。初めての鹿児島での生活は驚きの連続だった。
強いかごんま弁。煮しめが大きい。醤油の味の違い。土地による価値観も覚悟をしての移住だった。

蒲生へ。

そんな時に声をかけてくれたのが、蒲生町の友人、丸野さんだった。ちょうどその頃に蒲生で売りに出ていた中古住宅を勝さんを説得して購入。

蒲生の暮らしは新鮮で、自由な感じがした。水がおいしい。古くからの武家社会が醸し出す文化的な雰囲気。他者を受け入れ認めてくれる土壌もあるように感じた。「その時には周囲に、価値観を共有できる友人たちがたくさんいたんです。」実際、蒲生町ではカモコレなど地域おこしの取り組みもあり、様々な若い移住者が増えていた。そうした人達との自然なふれあいや交流が南美子さんを蘇らせていった。近所のスーパーのおいしい食材、薪の火でつくる豆腐、夢のような姿をみせる漆の里山、、。「何気ない暮らし自体が楽しい。」そう思えるようになった。

力が抜けて行く感じ。

大工の勝さんと家づくりを始めた。娘のりんちゃんもよく手伝ってくれる。風が通り、外と中がつながる家をめざして時間をかけてゆっくり造った。あえて早く完成を目指すのではなく、その過程や途上を楽しんだ。今はほぼ住宅は完成、いつも友人たちが集い、語らう場になっている。いろんなアイデアを持ち寄って、イベントを企画したりすることも。肩の力が抜けていく感じ。こだわりを捨てて、がんばらないと決める。そうした事ができるのも蒲生の良いところだと実感しているという。「お客さんが来る前のそうじをしている時が好き。」人とふれあう喜び、自然体で暮らしを愉しむスタイルを慕って、友人達が集う。

「大きな事はできないけど、自分が楽しくなっていけば、新しい自分を知ることが出来る。」
そう語る南美子さんは、今日もおだやかに暮らしを手作りしている。

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