記事更新日 : 2017.3.29

くすくす館

鮮度は最高!出荷者200人の誇りと笑顔の店

店に入ると緑一色だった。夏野菜であるオクラやゴーヤ、ピーマンなどが台の上で溢れている。「珍しいのはモロヘイヤ、花オクラなんかもありますよ。」と竹下悟館長が説明してくれる。

くすくす館は2003年にオープン。地元の農産物、しいたけ、加工品、工芸品などを約200名の組合員が毎朝出荷し、鮮度の良い農産物などを並べている。その新鮮な野菜を求めて、毎朝9時の開店前には、行列が出来るほどだ。館長は「ここは魚介類などは扱っておらず、市場からの仕入れも一切ない。純粋に野菜の品質のみで勝負している店なんです。」と胸を張る。確かにいわれてみればそうだ。魚も無いし、今は夏なので(取材時)大根など旬以外の野菜は無く、だから緑色一色に染まっている。「旬の野菜しかない。それが弱みでもありますが、強みでもあります。」隠れた一番人気のしいたけの他、お米もよく売れている。

シンボル的な有機野菜コーナー。

姶良市、特に蒲生町には有機農家が以前から多く、最近は特に新規就農者が県内外から蒲生に移住し、有機農業に取り組んでいる。くすくす館では当初から、入口近くに有機野菜コーナーが設置されており、お店のシンボル的存在だ。真っ赤に目立つ、厳しい条件をクリアした有機野菜(注1)のみにつけられる「有機JASマーク」を貼った商品が美しく並び、それらが開店直後からどんどん売れていく。お客さんが着いている証拠だ。有機といえども、虫食いや変形した野菜など見当たらない。有機農家の厳しい目と誇りが、綺麗で整った商品しか出荷しない状況を育てて来た。しかも安い。同じく出荷される慣行農法の野菜たちと変わらない価格がつけられている。慣行品も有機品も、見た目も価格も変わらない、、となったらどうだろう。もう味での勝負という事になる。お客にも確かな見る目が求められるという事だ。一見、賑やかで楽しい売り場だが、火花が散る様な、お互いが切磋琢磨する厳しい戦いの舞台でもある。

注1:有機野菜とは、農林水産省にて制定された「有機JAS規格」に適合した生産条件のもとでつくられ、また登録認定機関にその適合性が認められた野菜のことを指します。 単年作物(ほうれん草など)では二年以上、永年作物(たまねぎなど)では三年以上禁止農薬や化学肥料を使用せずに栽培している野菜であること。

福祉の世界から物産館の館長へ。

館長の竹下さんは、開店の2時間前の7時には、誰よりも早く出勤し、閉店後は誰よりも遅く帰る。平成24年の求人に応募して以来4年目だ。館長の仕事は何?との問いに「生産者、お客、スタッフをつなぐことです。」と言う。あとは新規顧客を獲得する仕事、いわゆる企画営業、広報など、常にアイデアと行動を求められる仕事だ。

竹下さんは、学生時代からボランティアサークルに所属し、福祉施設などの慰問やサポートを行って来た。当初は自分に自信が無く、周囲から認められたいという思いから、ボランティアなどの活動を行ってきたというが、活動を続ける内に、対等な人間同士としてかかわり合いながら喜ばれ、必要とされる仕事に生きがいを覚えるようになった。薬品の営業職を経て、福祉施設へ就職。キャリアを重ね、ホームヘルパー3級、介護福祉士などの資格も取得。しかし、実際は厳しい職種であることの現実に直面、腰などを痛めてしまい離職。その後、求人の機会を見つけ、心機一転、物産館の館長になった。福祉の世界から、地域の物産館へ。「よく考えたら人と接し、応えていくという事では同じですね。」

生産者の気持ちがわかるニコニコスタッフ。

くすくす館ではお揃いの茶色のエプロンをかけたスタッフ達がめまぐるしく常に動き回っている。それを見るだけでも結構楽しい。スタッフ歴10年の実能田(みよしだ)さんによると「仕事は各スタッフが目配せして、各自臨機応変に対応するんです。」自主的に動きを読んで、野菜などの入荷受け入れ、伝票チェック、棚への展示、お客様への対応・接客、レジ対応など他数人のシフトスタッフ達と連携しながら、有機的に、そして元気にハツラツとした動きは商品同様とても新鮮で、自然と店内の活気が満ちていく。「お客様の目線も農家の気持ちもわかるんです。」と実能田さん。出荷する生産者でもある彼女ならではの言葉だ。

入館5年の鮫島さんも「お客様との接客が楽しい。」と笑う。東京の百貨店での接客の経験が、今蒲生の地で活かされている。昨年体調を壊し3ヶ月休んだのち、職場復帰した際に、スタッフ達からはもちろん、お客様からも声をかけてもらった事が嬉しかった。若い館長を、人生経験豊富なベテランスタッフ達が支える状況も、くすくす館ならではの魅力かもしれない。

どうなるくすくす館!?

くすくす館で働く事の魅力を竹下館長は「毎日、次々出現するハードルを皆で考え、悩み、汗をかいて、乗り越えて行く。その時の喜びを共有できること。」ではないか?と考えている。売れない時は悲しい。なんで売れないんだろうと悩む。話し合い、試行錯誤を繰り返す。そういう日々をスタッフ、生産者みんなでわかちあう事こそが、常に商品や、空間、そしてスタッフの思いの鮮度をたもつ秘訣になっている。

「10年後のくすくす館はもっと大きくなっていて欲しい。自然と人が集まり、話し合ったり、学んだり自由にできる場所になればいいかな?姶良市全体の物産館としても成長させたい。」と館長の夢は大きくふくらんでいる。


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