記事更新日 : 2017.3.4

蒲生農産加工

蒲生農産加工 西堂寺 みすずさん

蒲生の地産地消=buy localひととおり、といえば物産館「くすくす館」である。

9時の開店前にはオープンを心待ちにしたお客さんが並んでいることもしばしば。何を隠そう、わたしが蒲生に引っ越してきた理由もこの物産館の存在があった。活気があり、新鮮野菜の種類の豊富さ、有機野菜コーナーも充実していて嬉しい。ぷりぷりの生しいたけ、薪火づくりのお豆腐、灰汁(あく)をつかった手作りこんにゃくは朝一番できたてあつあつで、わくわくしてくる。つい買いすぎてもお財布にも優しいのだ。

そして地元産の材料でつくられた加工品の数々・・・。その中でも味噌や醤油といった、根っこのものから竹皮で包まれたおやつまで、品数もラインナップもふるさと色濃い、漆地区にある農産加工場を訪ねてみた。


蒲生の中心部から北へ川沿いに小道を走ること20分、うす暗い「ととろのトンネル」のような木立を抜けると、明らかに空気がかわる。宮崎駿の映画に出てきそうな田園風景には、田の神様も幾人か鎮座しておられて、朝霧につつまれれば、まるで昔話の桃源郷のようである。

人口約300人弱の村の入り口には、大きなせんだんの木がシンボルの漆小学校(21人のやまびこ留学生を含む子供達が兄弟姉妹のように学ぶ)、おかべ屋さん(大豆を炊くのはなんと薪!)宿泊もできる漆の里・万来館(コミュニティーセンター)簡易郵便局に小さな商店、そして小学校のたもとに、毎日ほとんど休むことなくふるさとの味をつくり続ける「蒲生農産加工」がある。


ちょうど私たちが訪ねたとき、味噌をつくる為の大量の麦が蒸しあがって湯気があがり、大バラ(平たい竹ザル)にうつされ、これからこうじの種付けにはいるところだった。身体全体をつかってあつあつの麦をひろげるのはけっこうな力仕事だ。半日がかりで120キロを仕込む。

いこもち、けせんだんご、からいもだんご、よもぎ・黒糖ふくれ菓子、味噌に麺つゆ、たけのこやにがごりの佃煮、がね(からいもの甘い天ぷら)、煮しめ入り日替わりのおかずセット。
4月から6月はあくまきづくりに追いかけられる。これぞ鹿児島!という郷土料理の代表選手達が、ひとつひとつ丁寧に手づくりされている。竹皮だんごにを包む手元が美しい。


みすずさんの朝は早い。朝6時には自ら加工所に入る。

農産加工所の前身の生活改善グループは、農家が出荷できない農産物を買い取り加工し活かすことと、女性の働く場所としての役割も果たしてきた。地域の高齢化にともない、それまで各家庭でつくるものだった味噌が、こうして生産委託されていったことも、時代の移り変わりをあらわしている。2005年に組合から法人化へと移行、「有限会社 蒲生農産加工」として独立した。みすずさんは5人のスタッフを抱える会社の社長さんである。

ラインナップのなかに毎日の食卓に欠かせない醤油もある。醤油は大豆と麦を炒ってから寝かす。できあがるまで毎日欠かすことなく1年間かきまぜる。加工品すべてに添加物は一切使わない。それは生活改善グループ時代からひきついだことが、今も変わらず続いている。


福岡に住む母はよもぎのふくれ菓子が大好きで、帰省のときには必ず荷物にしのばせる。

「よもぎはどこで採れたものですか?」

「漆で採れたものですよ。ゆず味噌のゆずも近所のもの、味噌の麦も今年から姶良市が生産推進しているはだか麦をつかっています。」

遠方から客人には、お土産にあゆ味噌をすすめる。

「最近みかけないですけど・・・」

「あゆ味噌はね、手間がかかるんですよ。楽しみに待っている人がいるからまたつくらないとね・・・」

里芋のおいしい季節にはゆずみそ。こんにゃくにも合う。佃煮も当たり前かもしれないが、材料は蒲生産。加工品の原材料がこんなに身近なものであることを、この目で確かめることができて、ますますファンになった。ローカルフードを地元の材料で、絶え間なくこつこつと作り続ける日々は、静かにわたしたちの暮らしを支え、やがて時を経て子供たちのソウルにしみていく。それがみすずさんの笑顔と喜びとなり、循環していく。

蒲生で暮らすこと、食べることをもっと楽しみ、大切にしていきたいと思いながら、ととろのトンネルをあとにした。


大きい地図を見る

カモコレで蒲生農産加工を体験できる企画は毎回人気ですぐ定員いっぱいになるそうです。

一覧へ戻る